燻らせたグレイを切り裂くように飛ぶ翡翠
八月後半、まだ暑い日が続く。エアコンに足を向けて寝られない日々。(実際にはエアコンは俺の足元側から懸命に冷風を送り続けている。)
八月の前半に二十歳になっていた。二十年生き続けた。二十年目の特別なログインボーナスとして、酒とタバコを嗜む権利を手にしていた。
結局、二十歳当日には酒もタバコもやらなかった。もとより酒はやらないと決めていたのでそれも仕方なかった。しかし、せっかく二十歳になったというのに何もしないのでは味気ないというか、つまらないのでタバコを吸ってみることにした。
どんなタバコを吸おうか。タバコっつったってたくさん種類がある。せっかく吸うんだったら激シブでとびきりカッコいい奴がいい。
昔、先輩に無理やり吸わされたメンソールのやつは箱がダサい。不良の友達からもらった輸入タバコは気取りすぎだ。なにか丁度いいタバコはねーのかと、いろいろ調べた結果、俺が買ったのはアメリカンスピリットのオレンジだ。理由は竹野内豊が吸っていたという情報があったからだ。「竹野内豊が吸っていたタバコ」これだけで十分すぎるほど激シブでとびきりカッコいいはずだ。
アメスピのオレンジとやっすいライターを調達。本当はZippoを持っているのでそれで吸いたかったのだがハマるかわからないのにオイルいれんのがめんどくさかったのでやっすいライターで我慢。
いつもの散歩コースにやってきて先っちょに火をつけ煙を肺へ入れる。。。
マジでなんともねぇ、特に何の感動もねぇ。ただタバコを吸っているのは手持無沙汰が解消されるのがいい。まぁ何日か吸い続ければ嫌でも好きになるだろう。これから毎日散歩のときにタバコを吸うぞー!
~2日後~
川を眺めながらタバコを吸っていたら草の茂みからエメラルドグリーンが飛び出してきた。灰色のフィルター越しにそれを見ていた。
家に帰り風呂に入る。体がおかしい。鏡に映る俺の顔がいやに青白い。足の震え、吐き気、視界がさだまらない。立ち上がり風呂から逃げようとしたが、それも失敗。次の瞬間には俺の体は床に倒れていた。
その音を聞いた母が来て助けられたが本当に怖い思いをした。
もう禁煙しよ。